中野 常明氏によるコラム「木を友に」
9 モミノキ
モミとトドマツは、共にマツ科モミ属の仲間で、直径1.5~2m、高さ30m以上にもなる点でもよく似ている。葉も樹肌もよく似ているので区別が難しい。葉先をルーペで見ると両者ともに二つに分かれている。肌に触れてもエゾマツやヨーロッパトーヒ(葉先は二つに分かれていない)のように痛くないのは、そのためと言われている。日本のモミ属には、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソなどがあり、主に本州以南に見られる。北海道では、アカトドマツ、アオトドマツが見られるだけである。したがって北海道の人は、モミになじみが薄い。
モミと言えば、クリスマスツリーに使われる木として有名である。きらびやかに飾りつけたツリーの前で「モミノキ、モミノキ、生いや茂れる…」と歌うのが典型的なクリスマスの風景である。因みに、モミノキは12月24日、つまりクリスマスイブの誕生木でもある。ドイツ語でモミノキは「タンネンバウム」。これを省略して「タンネ」といい「タンネの森に粉雪積もり…」などと山の歌に使われる。
「樅の木は残った」という山本周五郎の小説がある。主役格は、伊達藩の家臣でいわゆる伊達騒動の中心人物、原田甲斐である。歌舞伎や講談の「伽羅(めいぼく)先代萩(せんだいはぎ)」では、悪役として扱われているが、小説では、逆の見方をしている。つまり原田甲斐は、本来政治の汚濁から遠い清らかな自然を愛する一人物としている。大気汚染に弱いモミを彼に重ね合わせたものである(辻井達一『日本の樹木』中公新書より)。同書で著者は、仙台の東北大学理学部付属植物園の置かれている青葉城は、モミの林に囲まれており、亭々とした大木が残っていると記している。機会があれば是非訪れたい。
実は、10年ほど前までモミは見たことが無く一度見たいと思っていた。ところが定年となり札幌に住み始めたが、直ぐ近くの防風林でそれを発見した(写真)。
ヤチダモを主体とする防風林の中に、数カ所トドマツらしい木の植えられた箇所があった。名札が掛かっていたので念のため覗いて確かめたところ「ウラジロモミ」と書いてありびっくりした。葉をひっくり返して裏を見ると確かに白くなっていた。そこで、「葉の裏が白いモミノキ」と確認できた。トドマツと何処が違うかよく観察してみると、樹肌がトドマツ程滑らかではないがエゾマツ程粗くなく鱗片状にもならない事が分かった。遠目では、トドマツとは区別がつかないのは当然と思った。
昔、正月の門松には、トドマツ、エゾマツの枝を飾ったものだが、今はマツの絵を印刷した紙を貼るだけで、味気なくなった。「木を切ることは悪いことだ」という単純な発想から来たものだ。植林したトドマツ、エゾマツの下枝を払いそれを門松に使えば一石二鳥の筈だ。人間が植えた木は、人間が面倒を見てやらなければ正常に育たないという事を知ってもらいたいものだ。さもなくば、専ら木を切るのに熱心なウッディーズは、悪の集団ということになってしまう。