中野 常明氏によるコラム「木を友に」
8 ナナカマド
北海道の人には、説明するまでもないほどのお馴染みの木である。一応植物学的に説明を加えれば以下の通り。山地に生えるバラ科の落葉樹で、高さ10m~15m、太さ30㎝~40㎝、日本、南千島、サハリン、朝鮮に分布する。6月に開花、9~10月に赤熟し、冬になっても落果せず赤い実に白い雪を被った姿は美しい。秋の紅葉もまた見事である。漢字では七竈と書く。
旭川、砂川など道内の多くの市町村で「市町村の木」として選定され、その数は30以上にも及ぶ。札幌市では昭和7~8年頃から盛んに植えられ94年当時で2万9千本に達し、街路樹としては第一位の本数である。花言葉は「安全、慎重、用心」だからラッシュのメインストリートに植えるには、最適の木といえるかも知れない。10月12日の誕生木でもある。
漢字で七竃と書くのは、7回竈(かまど)に入れても燃えないところから来ているというのが通説となっている。アイヌは、燃えにくい性質を利用して、ロストル代わりに使ったという。本州では「雷電木」と呼び雷除けに神社の境内に植える地方もあるとか。同属には、タカネナナカマド、ウラジロナナカマド、ミヤマナナカマドなどがありいずれも高山性である。時々、大雪山系旭岳の裾野の紅葉を見に行くが、赤と緑の見事なコントラストを見せてくれるのは、ウラジロナナカマドと這松である。
ナナカマドの実は、小鳥の餌になる。鳥にも餌の好みがあるらしくナナカマドの実を好むのは、ヒヨドリ、レンジャク類、ツグミ、ムクドリなどである。苫小牧に住んでいた頃、春先にキレンジャクがやってきて、あっという間に並木に残っていた実を全て食べ尽くしたのを見て驚いたことがある。実を噛むと大変苦いので、人間が食べるはずがないと思っていたが、そうでもないらしい。北欧では、ナナカマドの実からジャムを作る地方があるとか。ただし、この場合は甘みのある実を使うらしい。
この話を聞いた鮫島惇一郎(植物学者、北海道の植物に関する著作が多い)夫人が、ヨーロッパナナカマドの実からジャムを試作したところ、まあまあの味だったとのこと。この話を耳にした物好きな人達が、「ナナカマド研究会」を作り、実の利用のために知恵を絞っているとのこと。凍てつく冬の寒さにもめげずナナカマドの実を丹念に囓り800個体の中から甘い実をつける3本の木を見つけ出した。(鮫島惇一郎著「北の森の植物たち」朝日新聞社)
その種は、苗作りの専門屋に渡されたようだが、その後の成果は聞いていない。あるいは既に、「ナナカマドジャム」が製品化されているかも知れない。(江別でナナカマドジャムを製造販売していることを聞いた)
最近園芸店でアロニアという名の苗木が売られているが、甘い実をつけるナナカマドの仲間、アロニア・メラノカルバ(メラノカルバナナカマド)と見られる。