森林人コラム

中野 常明氏によるコラム「木を友に」

23 シナノキ

シナノキの並木

シナノキの並木

 山地に生える落葉高木で、高さ20m、太さ1mになる。葉はハート形で縁は鋸歯状、大きさは4~10㎝、葉の付け根から長い柄を出して淡黄色の小さな花を付ける。漢字で木偏に品と書くが当て字である。札幌の街路樹としては約6000本植えられている。街路樹として有名なのは、ドイツ、ベルリンの「ウンター・デン・リンデン」で、日本語で言えば「シナノキ通り」である。 近縁種にオオバボダイジュ(大葉菩提樹)がある。シナノキより葉が大振りで葉の裏と冬芽に毛が生えている点が異なる。但し札幌の藻岩山には、毛の生えていないモイワボダイジュという変種がある。

 日本でボダイジュと呼ばれる木には3種あり少々ややこしい。本来のボダイジュは、インド原産で、その下で釈迦が悟りを開いたと言われる。二番目は中国原産のボダイジュで、栄西禅師が中国から種を持ち帰り日本中に広がったものである。これはオオバボダイジュに近くインド原産種とは全く異なる。中国で、葉の形がインド種と似ている木を見つけ寺院の境内に植えたのが始まりらしい。その種を栄西禅師が名前と共に日本に持ち込んだという次第。三番目はオオバボダイジュで、日本の在来種である。北半球の温帯には、シナノキの仲間が約30種ある。

 シナノキの木質は軟らかく、強度も弱く構造材にならない。板材にしても変形しやすいので、そのまま使わずに、ベニヤ板として使うことが多い。木彫り、割り箸、薄皮(経木)、楊枝などの材料として広く使われている。北海道土産の熊の彫り物は殆どシナ材である。この木の皮の繊維は大変長くて強いので、昔から縄、漁網、船舶用ロープ、畳の糸、柿の吊るし糸、酒や醤油のこし袋、馬の腹掛けなどに利用された。北海道の開拓時代には、この糸からカヤを作ったとのこと。戦中に大砲や戦を覆っていた迷彩ネットが戦後に放出された。ネットに偽装用に染色されたシナの内皮が沢山結ばれていたので縄代わりに利用したことがある。薪にもなったが、鋸引きは容易だが柔らかすぎて割れにくく火力は劣った。オオバボダイジュの材質・用途はシナノキに同じ。

シナノキの花

シナノキの花

 シナの花は、蜂蜜の大きな供給源でもある。北海道には、七月中旬から多くの養蜂家が集まってきて採蜜する。昭和40年頃の数字では、国産蜂蜜生産量は約6千トンで、そのうちの約二割がシナ蜂蜜であった。開花期にシナやオオバボダイジュの下を通ると、甘い蜜の香りが風と一緒に流れ、耳を澄ますと蜜集めに忙しい蜂の唸る声が聞こえる。

参考図書
朝日新聞社 『北方植物園』
辻井達一『「日本の樹木』(中公新書)
佐藤孝夫『「新版北海道樹木図鑑』 (亜璃西社)

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