森林人コラム

中野 常明氏によるコラム「木を友に」

22 ナラ

若葉のミズナラ

 北海道ではナラ(楢)と言えば、普通、ミズナラのことである。ミズナラは、ブナ科コナラ属の落葉高木で、高さ20m、直径2mにも達する。雌雄同株でサハリンから九州まで広く分布するが、本州中南部以南では標高1,000m以上で見られる。北海道では平地でも見られる。材は堅くて重く、やや紅色を帯びた褐色で、磨くと美しい艶が出る。家具材、床板、たる材、舟材、椎茸のホダ木などに使われる。昔は、木炭の原料や薪材として重要だった。名前通りタップリ水を含んだ木である。ドングリの木と言えば、子どもでも分かるお馴染みの木である。

 植物学では、ナラと言えばコナラを指す(ミズナラの別称はオオナラである)。コナラはミズナラより小振りで、葉やドングリの形で見分けられる。寒冷地では育たず、札幌と岩見沢を結ぶ線が北限と言われている。従って、道北や道東では見掛けない木である。札幌の北星学園や円山動物園では、この木の森が見られる。有名な武蔵野の雑木林は、このコナラとクヌギが主体の林である。

紅葉するミズナラ

 同じブナ科コナラ属で道内で見られる木にカシワ(柏)がある。柏餅のカシワである。海岸や日当たりの良い山地に生える落葉高木で、高さ20m、直径1mになる。冬になっても葉は枯れたまま枝に残っており、春になって新葉がでてから古い葉が落ちる。秋になると葉を守る神がこの木に宿ると言われたため神聖視され、神職の家紋などに使われた。北海道神宮の境内にも柏の巨木が見られる。樹皮に含まれるタンニンは最良の皮なめし剤で、戦時中は軍事用として大量に伐採された。ウィスキー樽にはカシワが最適でナラ材では5年程度の寿命が20年も持つと言われる。

 ところでカシワの他にカシ(樫)という木もある。両者は似ている点はあるが異なる木である。カシというのは、ブナ科コナラ属のうち特に常緑性の木の総称で、シラカシ、アラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシなど沢山の種類がある。ただし、カシという単種はない。カシワは落葉するので、本来ならナラの部類のはずだが別格で単独名を持っている。

 札幌では、外来種のアカナラを見掛けることが多い。北米原産で、葉はカシワに近く切り込みが深く、幹はすべすべしている。秋になると紅葉することからアカナラの名が付いたらしいが、楓のように紅葉した木はまだ見たことはない。木の姿は堂々として風格がある。道庁と植物園の間に見事なアカナラの巨木の並木がある。

参考図書
朝日新聞社 『北方植物園』
辻井達一『「日本の樹木』(中公新書)
佐藤孝夫『「新版北海道樹木図鑑』(亜璃西社)

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