春日 順雄氏によるコラム「命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵」
6 ハコネウツギ
7月20日、観察会が行われた芸術の森ではハコネウツギが美しい花をつけていた。ハコネウツギは、スイカズラ科タニウツギ属の植物である。庭園樹や公園樹、生け垣などに多用されているので、よく目にする。花は、白から薄紅色、紅色と変化する。白色の花と紅色の花が混在し、変化と艶やかさを増し美しく見えるので、別名ゲンペイ(源平)ウツギとも。源氏の白旗、平家の赤旗になぞらえての命名という。
白花と紅色花が混在するのは、白花が受粉すると、薄紅色、さらに紅色に変わるからである。紅色への変化は、受粉完了のサインを昆虫に送っているのであろう。白花は、「蜂くん、私は、まだ受粉していないよ。」と語りかけ、蜂は、紅花には目をくれないで、白花に行くのかもしれないな、なんて、ハコネウツギを見るのも楽しい。
同じ科・属の植物にウコンウツギがある。6~7月に登山をすると必ず出会う亜高山帯に生育する木である。
登山者の疲労した身体に元気を与えてくれる美しさがある。淡黄色で漏斗状鐘形の花の内面の下側は橙色の斑紋がある。この花も受粉のサインを出す。受粉すると、橙色の斑紋とその周辺は一段と濃い橙色に変わり、淡黄色の花も黄色味を増し、人の目を引きつける鮮やかさの魅力が薄れるような気がする。私でさえ、そう感じるのだから、昆虫には、受粉完了の強力なサインと受け取られるであろう。