春日 順雄氏によるコラム「命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵」
5 ヘラオオバコ
6月初旬、森に入るといい香りが漂ってきます。香りの源は、大きな葉、大きな花のホオノキです。この香りは昆虫を引き付けるのに役立っているのでしょう。
ホオノキは、香りは出しますが、蜜は出しません。この花を訪れるのは主に甲虫ですが、訪れた見返りはありません。ですから、受粉の効率は悪いでしょう。そのせいでしょうか、ホオノキは一斉に花を咲かせません。一本のホオノキの花を見てみましょう。花が咲き終わったものあり、真っ盛りあり、つぼみあり、様々な段階の花が見られます。受粉の効率の悪さを花期を長くすることでカバーしているのでしょう。
秋、実をつけているホオノキをご覧ください。あんなに沢山花を咲かせていたのに、実の数は多くはありません。やっぱり、受粉効率が悪いのだなと実感する風景です。
一つの花に雌しべと雄しべがある花を両性花といいます。ホオノキは両性花です。ところが、雌しべが先に熟する雌しべ先熟の花です。「花は少し開き、このとき雌しべが熟します。花はいったん閉じて、翌日からしばらくは雄しべが熟します。花びらが全部開くときは、すでに雄しべが散った後なのです」(北海道森林整備公社『森の世界』)。両性花ですが、自分の花粉では受粉しないという仕組みを持っている花です。