荒巻 義雄氏によるコラム「北極圏への旅」
第4回 ヴァイキングの奇跡
ヴァイキングは遠征先で越冬するとき、陸に引き上げた舟をひっくり返して屋根とし、住居を造ったという説がある。その証拠がスウェーデン南部にある大きな舟形列石だ。文字通り舟の形に石を並べたもので、これが家の基礎になる。
残念ながら、この不思議な遺跡はまだ見ていないのだが、実はまさに地球の反対側、イースター島にも同じものがある。英語ではボートハウスと呼ばれ、島内にたくさんある。
火山岩をちょうど縁石のように丁寧に加工し、舟の形に並べ基礎にしているのだ。この上に、太く丈夫な葦で船底形に編み、家にしていたらしい。
この、今では有名すぎるほど知られた巨石像の島へ出かけたのは、三十数年前。当時はまだ秘境中の秘境の一つだった。旅の目的は、例の太平洋に沈んだ超古大陸ムー伝説を唱えたチャーチワード説を立証するためであった。
イースター島は全島が草地に覆われた火山島だが、チリ航空が空路開発に苦労したほどの絶海の孤島だ。タヒチ島からでも南東へ、南回帰線を越え、優に3000キロも離れているのだ。だが、古代ポリネシア人は荒海を乗り切って移住を果たした。彼らは、海流を縄で、島を小石や貝殻で示す海図を持っていたらしい。むろん、現代人以上に星座を知っていた。
であれば、中世の偉大な航海民族なら太平洋への進出も可能であったのではないだろうか ― とつい、ボートハウスをヴァイキングに結びつけて考えたくなる。
歴史的事実として、ヴァイキングが、アイスランド、グリーンランド経由で北米大陸の東縁に位置するニューファンドランド島に入植したことは知られている。
西暦1000年のことだから、コロンブス以前だ。とすれば、さらにセントローレンス川を遡り大陸奥地へ向かい、ロッキー山脈の豊富な木材でバイキング船を作り、太平洋へ。あるいは、大陸東側沿岸を南下、南極まじかのホーン岬を越え、太平洋へ進出していたかもしれない、と空想するのも楽しい。
実は、近年、人類の移動に関するまさかと思われる多くの発見もあり、改めてわれわれの祖先の冒険精神に驚かされる。今回は森の話が一転、航海の話になったが、木は森の産物であり、その木で舟が造られるのだ。
もしわれわれの世界に森がなかったら、人類は大洋を渡ることができず、文明もまったく別のものになっていたにちがいない。 (つづく)