石原 亘氏によるコラム「人と木のひととき」
第6回 その木、どこの木
僕は現在、ごく大雑把な分類で言えば、「もやっとしていて、さえないサラリーマン」なる生き物として存在している。だがしかし、これは生まれた当初の予定とは全く違う。本来ならば、東大を首席で卒業した後、何らかの分野で世界第一人者になって、その何らかの分野でノーベル賞を受賞し、世界の少年少女の憧憬の的となるはずだった。それがどうしたことだろう、当初の予定とは全く違うことになっている。
政策、特に林業政策の場面では、このように最初の想定と結果が大きくかけ離れてしまうことが多々あって、むしろ『そんなんばっかり』といった印象さえ受けるのであるが、最近その好例として「木材利用ポイント制度」が話題になっているので紹介しておきたい。
この制度、簡単に言うと「日本の木をどんどん使って家を建てよう」というキャンペーンであり、新築時に使用した「国産材」の量に応じてポイント(木材利用ポイント)が付加され、最大30万円相当の対象商品と交換できる(また、商品交換以外にも、例えばデッキなどの追加工事に使用することも可能だ)。本制度は平成25年4月から開始され、1年限りの予定であったのだが、実際にはもう半年実施期間が延長された。なお、事業予算として410億円もの巨費が充てられた。
「その木どこの木?」
この制度、開始決定から実施までの期間が短く行政側も企業側も準備不足であったことや、針葉樹(スギやヒノキ、トドマツ、カラマツなど)に対象樹種が限定されていること(従って、国産であっても広葉樹の無垢材などは対象外)、いかんせん交換対象商品がなんとなくショボイことなど、さまざまな「ツッコミどころ」(つまり問題点)はあったものの、国産材の需要喚起という目的そのものはハッキリしていた。…ところが、である。実施後1年くらい経ったころに突如として、ポイント対象製品樹種に「ベイマツ」と「ホワイトウッド」が加わったのである。本制度のキャッチコピーは「その木、どこの木?」であったのだが、まったくもって「どこの木」なのか分からなくなってしまった。
これには様々な業界事情があるのだが、結局のところ、国産材の需要喚起ではなく、木造住宅の推奨政策へと、制度の目的がすっかり様変わりしてしまったのだ。
木材利用ポイント制度が、日本の森づくりに貢献したのか否かの評価は後世に委ねるほかない。これにより少しでも木材産業全体に体力が与えられたのであれば、結果として国産材の利用促進に結びつく点もあるのだろうが、もう少し芯を持ったキャンペーンであってほしかった、というのが僕の本音である。