石原 亘氏によるコラム「人と木のひととき」
第5回 木の「お値段」
「例えばの話」。同じウッディーズ会員のツクダ君(僕の大学の後輩で既婚者)に、強引に合コンに誘われて‘しぶしぶ’出席すると、初対面の人から「材木屋の仕事してるんだ! 何の木が一番高価なの? ヒノキって高いんでしょ?」といった手合いの質問を受けることがある(…どのような宴席にしろ、異業種の方には似たような内容の質問をよく受ける)。しかし、こうした質問は一概に答えることが難しく、いつも密かに頭を抱えている。
例えば、磨き丸太のような特殊なものを除くとしても、サイズや木目の様態、節の有無によって、同一樹種でも小売価格は10倍にも100倍にもなる。
いわゆる「銘木屋」の店頭に並べられている一枚板などでは、少なくとも樹種の観点からは、m3単価(木材価格の基本単位は¥/m3)が高いとか安いとか、そういった議論は空疎に思える。こうしたいわゆる「銘木」でなく、一般的な建築材(いわゆる並材)に関しても、木材は価格の乱高下が激しいため、これもまた評価が難しい。高価なイメージを持たれやすいヒノキでさえも、原木価格においてはスギとの価格差はここ数年でかなり縮小した(図1)。
一般に安価と思われているホワイトウッド等の外材であっても、アベノミクス始動後の急速な円安の折には、国産材と同じくらいの価格帯まで急騰したこともある。そして、― ここが木材のステキなところなのだが ― 間伐材などの極めて安価な原料であっても、用途によってはちょっとした加工でその「お値段」をうんと高めることができる。顕著な例が『割り箸』で、国産割り箸の小売相場を1膳2円と考えても、これをm3単価に換算すると約15万円/m3にもなる。スギの3寸角の柱材は6万円/m3程度であるから、価格だけに注目すると、銘木とまではいかなくてもちょっとした「お高いモクザイ」なのである(もっとも、このハナシは歩留まりについて考慮していないから、いささか暴論ではあるが…)。
さて、今回の結論なのだが、冒頭のような質問に対して、未熟な僕ができる精一杯の回答は「木材の『お値段』は一概に評価できるものではないが、この世に価値のない木材は一本たりとも存在しない」といった程度のものである。このぐらいキザな回答を用意しておけば、きっと女の子からはモテモテであろう(…という夢を見たのでした)。