森林人通信

Vol.77 2012.6.1

若葉、新樹の森で 2012年の活動本格化

 苫小牧東部にある「植苗病院」周辺の林は穏やかな春の日に包まれていた — 札幌近郊より一足早く春が訪れるここから、ウッディーズ2012年の活動は始まった。多くの新規会員を迎えて意気盛んに。

活動日誌

【4月14日】 植苗病院 (除間伐)

今年度初の活動は苫東ウッディーズとの共同作業。札幌ウッディーズの参加者は23人という記録的な人数だった。こうも人を惹きつけてやまない苫東の林の魅力とはなんだろう。暗い緑の壁となって立ちはだかるのではなく、人の進入を開けっぴろげに受容する、そんな開放性だろうか。

そう思えば、この日、女性会員たちが、日ごろ敬遠しがちな伐倒作業に積極的に立ち向かっていた(写真右)のも、むべなるかなと納得する。

【4月22日】 高川山林 (薪割り) 

 「森林ボランティアグループによる薪づくり」だが、実は「里山」を健全に維持する観点からは至極真っ当な作業である。人が集い、山の恵みをいただくことで山の整備が進む。人と人との交流、山と人との交流に、心地良い汗がながれ、とびきりの笑顔がほころぶ。

新旧対決? 少年時代、一家の薪づくりに責任を持った世代は腰の据わり, 腕の振りから違うのだ~。
現代青年よ、見たか (^O^)  (撮影:工藤 了)

【5月6日】 田嶋山林(林相調査)

【5月12日】 柴原山林(冬囲い撤去)

【5月19日】 北山山林(山菜採り他)

【5月27日】 高川山林(薪割り) 

火を噴くラーメン!

火を噴くラーメン!

撮影:宮田和慶

 4月22日、高川山林における作業後の、地元3人衆による「反省会」でのこと。

 ご機嫌になったところで、インスタントラーメンを食べることに。茹で上がるころを見はからい「そろそろ食うか」と箸と丼を構えたら、いきなりボーッと炎が上がった。「なんだ、なんだ~!?」と驚愕動顛したが、理由はすぐに判明。

 水と間違え焼酎を注いでいたのだ。加熱でアルコール分が気化し引火…。

 バカ同然の酔っ払いのこと、「食ってみるべ」と丼に入れたら、麺がまだしつこくチロチロ燃えている。(写真下)

 水を注ぎ火を消して掻き込んだら、気化したアルコールにむせてゲホッ、ゲホッ…。

 最終的にみんな食ってしまったが、味は結構イケてた (*^_^*)

スズメバチ シーズン到来!

スズメバチの基礎知識

 道内にいるスズメバチ類は14種類で、営巣場所は、地中、木枝、樹洞、藪、軒下、壁間、屋根裏など様々。比較的風通しが良くて陽が当たる場所は、要注意だ。
 スズメバチは、巣の防衛本能が非常に発達しており、外敵が巣に近寄ると偵察バチがカチカチと威嚇音を発して侵入者の周りを飛ぶが、気付かずに接近して巣に刺激を加えてしまうと、巣内に警報フェロモンが撒き散らされ、巣内から多くのハチが一斉に外へ飛び出し、対象物に真っ直ぐに飛びかかていき、毒針で刺し続ける。毒針は巣を守るための護身用武器で、獲物を狩る際に用いることは殆どない。
 刺されるといきなり激痛が走る。刺された時は、動いている刃が躰に当たらないように直ぐに機械を止め、中腰になってその場を逃げ出す。
 安全な場所に退避後は安静にし、直ぐにポイズンリムーバーでハチ毒を体外に出す。使えない場所は、歯で噛み絞ったりして吸い出し、吐き出す。水があれば、口を漱ぎ、刺された部位のハチ毒を洗い流す。
 ハチアレルギー体質者の場合、重症だと全身症状が起こるのは10~15分以内という早さなので、処置の迅速さが救命のカギを握る。エピネフリンを注射すれば、医療機関に連れて行くまでの時間稼ぎができるが、エピネフリンは事前に医療機関で処方して貰っておく必要がある。
 刺された後は、時間の経過と共に、熱を帯びて大きく腫れ上がり、刺すような痛みを伴う。手の甲だと、野球のグラブのようにパンパンに膨れあがる。2日目前後がピークとなり、4、5日で治まる。(ハチの種類や刺された部位、箇所数等により症状は異なる)

刺されないために

 「黒」に対する攻撃性が強いので、黒いものは身に付けない。匂いもハチを刺激する。化粧品類、体臭、汗臭さに反応する。
 忌避剤はない。作業に集中し過ぎて偵察バチや巣自体を見逃さないよう周囲への目配りを欠かさないことが肝要。ご同輩、ご用心を!

(本稿はA.B.さんの原稿の要約。文責編集者)

命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵 

~春日 順雄氏によるコラム~

20【フキ】

 山菜シーズンです。香り豊かなフキは美味しいですね。フキの茎は地下茎となって地下を縦横無尽に張りめぐらせています。地下茎から葉柄を立ち上げその先に葉をつけます。茎を食べると思っている人がいますが、山菜として食べるのはフキの葉柄です。茎は地下茎ですから、地上には出て来ないのです。

フキノトウの雌花

フキノトウの雌花

フキノトウの雄花

フキノトウの雄花

 春、早く地下茎から花茎を地上に伸ばします。これがフキノトウです。フキには雌株と雄株があります。雌株には雌花だけをつけるフキノトウが、雄株には雄花だけつけるフキノトウができます。

 フキは虫によって花粉を運んでもらう虫媒花です。ところが、雄花には密腺がありますが雌花にはないのです。これでは、雌花に花粉を運んでもらえません。雌花に花粉を運んでもらう秘密はどこにあるのでしょう。

 写真にあるように雌花をよく観察してみますと、必ず数個の雄花が混じっています。その雄花が出す蜜に虫が集まって来て受粉が成立するのです。その雄花には花粉を出している様子が見られませんから、雄の機能を失った虫集めに特化された雄花と考えることが出来るでしょう。

 身近にある山菜のフキですが、命をつなぐために巧妙な仕組みを編み出したものであります。

(文・写真 春日順雄)

(コラム「命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵」のバックナンバーは、「森林人コラム」で読めます)

森の本棚

長い枝でそっと触れあって… ルナール『博物誌』

蛇を「長すぎる。」の一言で説明し尽くしてしまう『博物誌』。70種類の動物を描写した末の最終項に木が登場する。 以下、全文を掲げる。

樹々(きぎ)の一家

 彼らは道のほとりには住まわない。物音がうるさいからである。彼らは未墾の野の中に、小鳥だけが知っている泉の縁(へり)を住処(すみか)としている。

 遠くからは、入り込む隙間もないように見える。が、近づいて行くと、彼らの幹は間隔をゆるめる。彼らは用心深く私を迎え入れる。私はひと息つき、肌を冷やすことができる。しかし、私には、彼らがじっとこちらを眺めながら警戒しているらしい様子がわかる。

 彼らは一家を成して生活している。一番年長のものを真ん中に、子供たち、やっと最初の葉が生えたばかりの子供たちは、ただなんとなくあたり一面に居並び、決して離れ合うことなく生活している。

 彼らはゆっくり時間をかけて死んで行く。そして、死んでからも、塵(ちり)となって崩れ落ちるまでは、突っ立ったまま、みんなから見張りをされている。

 彼らは、盲人のように、その長い枝でそっと触れ合って、みんなそこにいるのを確かめる。風が吹き荒(すさ)んで、彼らを根こそぎにしようとすると、彼らは怒って身をくねらす。しかし、お互いの間では、口論ひとつ起こらない。彼らは和合の声しか囁(ささや)かないのである。

 私は、彼らこそ自分の本当の家族でなければならぬという気がする。もう一つの家族などは、すぐ忘れてしまえるだろう。この樹木たちも、次第に私を家族として遇してくれるようになるだろう。その資格が出来るように、私は、自分の知らなければならぬことを学んでいる——

 私はもう、過ぎ行く雲を眺めることを知っている。私はまた、ひとところにじっとしていることもできる。

 そして、黙っていることも、まずまず心得ている。

森林人歌壇

 何か敷きてあるかに見えて跨ぎたり窓よりもるる月の光を
 長靴と鍬を洗ひしそのついで流れに繁るクレソンを摘む

原 公子

 白樺の冬木のあはひに今日の空雲ひとつなく穏しく高し
 裸木のをちこちに見え寄生木の色あはくして雪の降りつぐ

高橋 千賀

 春浅きコナラの林に日は射してナニワズの花黄色振りまく
 若者のへっぴり腰の薪割りを見かねて喜寿の我が出しゃばる

中野 常明


ウッディーズ歳時記

【「春」、「万緑」など】

 句作をたしなむ知友に「春は季語だよ」と教えられ、今更ながら、「春」こそ季語中の季語だよな、と思った。語源については諸説あるが、草木の芽が「張る」季節である、を採りたい。

「はる」といふことばの春がきてをりぬ  平井 照敏

 以下、春から夏への季語。
「山笑う」は、木々が一斉に芽吹き始め、色とりどりの葉の色が出てくる様をいう。山は赤や紅色、黄緑、茶緑、萌葱色などに染められるが、これは光合成が本格化するまでの短い期間、葉緑素が十分でないため緑色がまだ薄く、木が持っている他の色素(赤や黄)が見えてしまうから。これを言い表した「春もみじ」が季語として定着したようだ。
 「初夏」、木々は新しい艶やかな「若葉」から、葉の形が整い緑も深くなる「青葉」となる。山全体を視野に入れると「山若葉」が望まれる。
 濃淡さまざまの鮮やかな緑を呈する「新緑」は、見渡すかぎり一面の深い緑に変わって「万緑」となり、緑が溢れ「山滴る」の観を呈する。
 春から夏にかけての森は、生命力に満ち輝きを増していく。
「蝉時雨」を浴び、「緑陰」に憩う…、森林人ならではの喜びである。

 万緑やいのちあるもの光り合う  近藤 蹴石

林間独語

▼年度が改まるこの時機にウッディーズを去る方が少なくない。「会者定離」は世の常であるが、退会の事由について分析を怠るべきではないだろう。しかし、ここではそれは措き、「会者」の方、つまり最近の入会者事情について。

▼「ウッディーズは年配者の集団」と自他共に認めるところだった?が、このところ異変が起きている。昨秋以来の加入者は、20代4人、30代3人、40代4人、60代1人と若い入が圧倒的に多い。会員の平均年齢も下がり(註)、そのためだろうか、会に活気が感じられるようになった。

▼若い人の言動や発想には年長者からみると意外性があり、幼さがあり、それが新鮮で面白く、笑いに誘われることもしばしばだ。「会の雰囲気が変わってきたね」という声も聞く。皆さんの、技術や知識をしっかり学ぼうという姿勢も好ましい。

▼その一人から、「山仕事は奥が深いですね。完全にはまりました。」と言われ、こちらの、山に対する「帰依」の念も高まる。彼らの活力を滋養に若返り、ゆっくりと木々の呼吸に合わせて生きたい。そして、いつかその根方に眠る…って、何も若返っていない?

(註)会員の年齢構成等
 平均年齢は57歳。現役世代(~50代)の構成比は47%、退役世代?(60代~)は53%。男女構成比は76%:24%となっている。

編集後記

5月31日、高川山林でシウリザクラの開花を確認。しかし、今年の花付きは極めて悪い。そう言えば、キタコブシも咲いたと思ったら散ってしまった。エゾヤマザクラは豪勢に咲き誇ったけれど。

「年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず」というが、「年々歳々花も同じからず」だな。

気温の急上昇で、林内はエゾハルゼミの鳴き声とムーッとする熱気が満ち、夏到来! と思わせる。一刻も早くパソコンから離れ森へ戻りたいと気持ちが昂ぶり、編集作業を駆け足で終えた。