森林人コラム
中野 常明氏によるコラム「木を友に」
30 タラノキ
タラノキ
タラノキは別名タランボ、地方によっては、オニダラ、タラ、ホンダラ、阿呆ダラ等いろいろの名前がある。棘のある木の代表で、薮こぎをしながらキノコを捜したり、ヤマブドウ、コクワ(サルナシ)などを採りに行った時など棘に刺されて、「ええい!このアホンダラ」と悪態をついたものである。
日当たりの良い所に生える陽樹で、高さは4m位までで大木にはならない。幹や枝には棘があり、枝数は少ない。花は黄白色で余り目立たないが、実は3㎜位の球形で、10月頃に真っ黒に熟すので目立つ。葉をひっくり返すと、真っ白な毛が生えているものと生えていないものとがある。前者をメダラ、後者をタラノキと区別することがある。
陽の光が大好きな、典型的な陽樹である。山火事の跡地や皆伐跡地、森林に新しくつけた道路の道端などに良く生えている。困るのは、手入れをして日当たりの良くなったスキー場や、ゴルフ場に沢山生えることである。昔、山スキーに夢中になっていた頃、なけなしの金で買ったスキーズボンを、タランボの棘に引っかけて破りガックリと来たことがある。嫌われ者の木で、紀伊半島には、「大蔵、宮川へ女ごし(女中)いくまにゃ」という俗謡があるという。つまり、「人里離れた不便なところへ行って女中奉公をやるよりは、棘のあるタランボに登った方がまだましだ」ということである。
タラノキの若芽
中標津町HP(nakashibetsu.jp)から
棘は嫌われたが、この木の若芽は、山菜の王者と言われ昔からよく食べられている。食べ方は、おひたし、和え物、揚げ物などさまざまに楽しめる。子供の頃は、胡麻和えが主で、それほどうまいとは思わなかった。最近は、専ら天ぷらにして食べているが、ほんのりと香りのあるあっさりした味はたまらない。よくタラノキの若芽を採りに出掛けたが、「二番生いの芽は摘むな!」とお袋によく言われたものだ。二番生いまで摘んでしまうと木が枯れてしまい翌年から若芽最近は、山菜ブームのせいか、二番生いまで取り尽くして枯れた木が目立つ。
工場勤務で社宅生活をしていた頃、近くに沢山のタラノキがあり新鮮な若芽を天ぷらにして、どっさり食べることができた。実は定年で札幌に引っ越すとき、2本のタラノキを前庭に移植した。日当たりが良かったのでグングン伸びて大きくなり株数も増えた。夏に庭草を取る時、
あちこちを棘に刺されて往生した。止むなく日当たりの悪い裏庭に移したところ、適当な成長速度に納まった。
今年も元気に芽が伸びて、やがて天ぷらになる日も近くなってきた。
宮部金吾・工藤祐舜著、須藤忠助画『北海道主要樹木図譜』北大図書刊行会
奥田実『生命樹』新樹社
佐藤孝夫『新版北海道樹木図鑑』亜璃西社