森林人通信

Vol.46 2008.9.1

もう 秋が ! 移ろう季節に 森づくり

 振り向けば、うだるように暑かった夏が手が届きそうなところにある。
なのに、森にはもう秋の気配が漂う。作業に快適な季節がやってきた。

■8月の活動経過

【8月9日】 千歳市「北山山林」 12名参加
 最速ワイパーが利かないほどの強い一瞬の雨が通り過ぎて、北山山林は柔らかい緑色の木洩れ日に満たされる。
 何度も深呼吸をして、25年生アカエゾマツの枝打ちにかかる。作業が進むにつれ、辺り一面に漂う松ヤニの匂い。大好きなこの芳香を、深く、幾度も吸い込む。
作業途中、振り返って、さっぱりした樹の列を眺めるのもいい気分だ。木立を渡る風が心地よい。宮本さんが標本で見せてくれたハンノキハムシをハンノキに発見。異常発生とか。(那須川)

▲北の沢都市環境林の風倒木
04年9月の台風18号による被害木の処理が
大詰めを迎えている。

【8月24日】  北の沢 14名参加
日中の暑さを避けるため作業開始を2時間繰り上げたら、この朝の気温15度。動かないでいると寒いくらい。風が心なし黄ばんだ葉をそよがせて、秋の気配を運んでくる。西斜面の風倒木を処理する。

【8月30日】 北の沢 15名参加
植林地を下刈りする。濃いモヤの中、人影が動きエンジン音が響く。下刈りが一段落した後、吉村山林へ移動、カラマツの枝打ちと、一部、笹刈りを行う。
「何だか、よその森になったみたい!」とは、作業後の吉村夫人の感想。
 ウッディーズ応援団・板東さんから自家産西瓜をいただく。美味しかった。

動静

矢村さん 秋田へ引っ越して落ち着く間もなく愛犬フィンの容体が悪化。
連日、70キロメートル離れた動物病院へ通院して治療したが、回復の願い虚しく、静かに瞑目。2006年の暮れ、羊蹄山麓で行われた観察会のとき、冬木立の間を雪を蹴立てて元気に走り回っていた…、その凛々しい姿が偲ばれる。合掌。

春日さん 8月2日~9日 アポイ自然の村で開催された首都圏の小・中学生を対象とした「体験・学習ツアー」の事務長。
7日間の自炊生活で、北海道の自然、農作業、乗馬などを体験させた。

太田さん・脇さん 8月22日~30日北アルプス縦走。数か年企画の最終年。

森の時間
オオアワダチソウ

【オオアワダチソウ】 写真:安部文志朗

重たげなおじぎは、無数の花々の一つひとつが隠し持つ蜜の重さ故か。虫が集まり、ハチがハミングする。
なべてグローバル化は、何かと厄介な問題を引き起こす。この北アメリカ生まれのタフで美しい‘移住者’も、我がもの顔の振る舞いで、温和しい‘先住者’を追い立てる。

命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵 

~春日 順雄氏によるコラム~

6【ハコネウツギ】

ハコネウツギ

 7月20日、観察会が行われた芸術の森ではハコネウツギが美しい花をつけていた。ハコネウツギは、スイカズラ科タニウツギ属の植物である。庭園樹や公園樹、生け垣などに多用されているので、よく目にする。花は、白から薄紅色、紅色と変化する。白色の花と紅色の花が混在し、変化と艶やかさを増し美しく見えるので、別名ゲンペイ(源平)ウツギとも。源氏の白旗、平家の赤旗になぞらえての命名という。

 白花と紅色花が混在するのは、白花が受粉すると、薄紅色、さらに紅色に変わるからである。紅色への変化は、受粉完了のサインを昆虫に送っているのであろう。白花は、「蜂くん、私は、まだ受粉していないよ。」と語りかけ、蜂は、紅花には目をくれないで、白花に行くのかもしれないな、なんて、ハコネウツギを見るのも楽しい。

ウコンウツギ

 同じ科・属の植物にウコンウツギがある。6~7月に登山をすると必ず出会う亜高山帯に生育する木である。登山者の疲労した身体に元気を与えてくれる美しさがある。淡黄色で漏斗状鐘形の花の内面の下側は橙色の斑紋がある。この花も受粉のサインを出す。受粉すると、橙色の斑紋とその周辺は一段と濃い橙色に変わり、淡黄色の花も黄色味を増し、人の目を引きつける鮮やかさの魅力が薄れるような気がする。私でさえ、そう感じるのだから、昆虫には、受粉完了の強力なサインと受け取られるであろう。

(文・写真 春日 順雄氏)

(コラム「命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵」のバックナンバーは、「森林人コラム」で読めます)

木を友に 

~中野 常明氏によるコラム~

16【クルミ】

カシグルミ

 北海道でクルミと言えばオニグルミのことを指す。ぶどうの房状の丸い実を付ける小粒のクルミである。高さ30㍍、幹の太さ1㍍にもなる落葉高木。雌雄同株で日本、サハリン地域に分布する。用途は、家具材、銃床、公園樹。種子は食用。明治末には、銃床用として年間5~6万丁分のオニグルミが北海道から出荷された記録がある。子供のころ扱った薪の中にもよく混じっていたが、鋸で切りやすく斧でも割れやすく、油分が多く優れた薪材であった。

 漢字の「胡桃」は、胡(未開地の西域)から来た桃という意味。和名のクルミは、丸い実がくるくるとよく回るからとか、黒い実を意味するとか判然としない。オニは、実の核面がデコボコひどく(鬼面に似る?)堅くてなかなか割れないかららしい。確かに子供の時、殻を割るのに酷く苦心したことを思い出す。ところがエゾリスはこの堅い実を好物とし丈夫な歯でいとも簡単に殻を破って、上手に食べる。

 今のわが家の近辺には、外来種であるカシグルミ(=テウチグルミ)が多く、よく目につく。原産地がイラン(旧ペルシャ)であることからペルシャグルミとも呼ばれる。果皮が薄く実は簡単に割れ、オニグルミより大粒で、房状ではなく枝先に1~3個固まってつく。料理や菓子の材料として、古くから使われてきた。大木になるので、狭い庭には植えない方がよい。

 砂川に住んでいた頃、友人3人と札幌に出かけて来たことがある。その時、ある一軒の家の前にカシグルミを発見し珍しそうに眺めていた。話し声を聞いて中から女性が出てきて「よろしければ、クルミの苗を差し上げますが、如何ですか」と言われた。三人とも喜んで苗を貰ってきて庭に植えた。順調に育ちかなり大きくなったものの、社宅の引っ越しで移植したところ枯れてしまった。移植せずにそのまま残してくれば、今頃沢山の実を着けていただろうにと後悔している。

 旭川の観光名所に「優佳良織工芸館」がある。染色、織物はもちろん素晴らしいが、木が好きな者にとっては、床や壁を埋もれ木(川や湖沼に長年埋もれた木)を使った木材で統一した展示室を見るのが楽しみである。クルミ、ハルニレ、イチイ、ヤチダモ、等の部屋に分れており、落ちついた色調と木目の美しさは、幾度見ても飽きない。その中でも、クルミの部屋が特に気に入っている。

【参考図書】
・辻井達一「日本の樹木」(中公新書 )
・佐藤孝夫「新版北海道樹木図鑑」(亜璃西社 )
・朝日新聞社編「北方植物園」(朝日新聞社

(コラム「木を友に」のバックナンバーは、「森林人コラム」で読めます)

私はこんなひと

仲間のプロフィール:中村 准三さん

趣味はシーカヤック。ご本人は、「初級に毛が生えた程度の軟弱カヌーイスト」と謙遜する。
 カヌーの楽しみは、コースや海況を判断してのプランニングに始まり、イルカとの遭遇、澄んだ水、海からしか見られない海岸景観などを満喫し、リスクを回避してフィニッシュしたときの達成感で最高潮に達する。よく行くフィールドは日本海沿岸や恵山など。
 カヤック艇を函館に置いているので、おいそれと漕ぎ出すことができない。海恋いの日々が続き、テレビの前でボンヤリしている時など、奥様が「ウッディーズへ行くか精神科へ行くか、どっちかにしたら?」と、気遣って?くれるという。
 中村さんがウッディーズに現れるのは、二者択一の結果…。

木霊(こだま) 読者の便り

★「森の時間」のカタツムリで、殻がなければナメクジか~と思いながら写真を見ると、、、あれッ、殻がナイ…。もしかしたら、ナメクジでは? タイトルバックの写真の昆虫も名前を知りたいですね。
 「G8記念植樹祭」で植樹した樹種は、「クリーンラーチ(グイマツF1)」だったように思います。
 今月号は、裏を返しても「真っ白」ではなかったのですが、何か物足りない。あ~、「木を友に」がない。さみしい気がしました。
ビールのつまみに、ヒマワリの種もいいですが、カボチャの種も乙なものです。むかーし、祖父が薪ストーブの傍で乾かしたカボチャの種を、ひと粒ひと粒丹念に殻を割り、食べさせてくれたことを想い出します。(Aさん)

余録

 前号記載のの「カタツムリ」、Aさんの「ナメクジでは?」メールで正確な種名が気になり、町内のKさんを訪ねてお聞きした。専門家に同定してもらいましょうということで即答いただけなかったが、お宅を辞して間もなく、くだんの陸貝はカタツムリでもナメクジでもなく、「オカモノアラガイでしょうとのこと」というFAXをいただいた。「桂岡・春香山周辺では20数種の陸貝が確認できているそうです」とも。その種類の多さに驚いた。カタツムリしか知らなかった。

 Kさんにお会いする前に、日ごろ諸事につき教示を受けている学究から「これを読んでみたら」と、「桂岡自然新聞」なる分厚いファイルを渡されていた。同紙を編集されたのがKさんである。92年から5年間毎月発行、各号B4版2~3ページ構成。町内在住者を中心に十数人(以上?)の「特派員」を擁し、地域の森羅万象ことごとくを記録している。

「今月咲いた花」、「今月の昆虫」そして野鳥、目についたそれぞれ数十種もの種名の羅列がある。観察記録は、優しい感性や生活感溢れるものから対象への科学的アプローチの範を示すものなど様々で飽きさせない。話柄は古老の昔語りを経て縄文期に遡ることもあり奥行きも深い。「桂岡百科全書」の趣である。

 思いも寄らなかった豊かな命の営み…、それが身近に溢れていることを教えられ、辺りの風景がにわかに息づいてきた。
 「森の生きものは森の多様性を構成する不可欠の要素であり、様々な活動を通じて森林の成り立ちに深く関わっている」(注)という。その実相を詳しく知りたくなった。「ナメクジ?メール」のお陰だ。

(注)北海道林業普及協会『森林で遊ぼうシリーズ5』