森林人コラム

荒巻 義雄氏によるコラム「ムー大陸の夢」

第1回 それは存在しない。だが.....

 3・11の記憶は、生涯、忘れられないだろう。14時42分前後を境に、一瞬の魔が人々の運命を分けた。こんなとき、物書きはつらい。何を書くにしても、書くこと自体がはばかれるのだが、福島原発重大事故の決着がまだついていないうちに、本稿の締め切りが来てしまった。

 さて――編集部の要望で連載をつづけることになったが、当分の間、超古代遺跡と伝説の謎に挑むことにした。皆さんは、ムー大陸と呼ばれる超大陸が、太平洋上に存在していたという話をご存知だろうか。アトランティスはプラトンの著作にあるものだが、ムー大陸はずっと新しく、英国の退役軍人チャーチワードが、印度洋と太平洋にまたがるレムリア大陸説(P・L・スクレーター説)に便乗して言い出したものである。

 印度の古い僧院で見付かった粘土板に書いていたと本人は言っているが眉唾物だ。にもかかわらず、1926年『失われたムー大陸』が発表されると、世界的反響を呼ぶ。現在75歳以上のかたなら、戦時中、子供のころ、耳にしたことがあるはずだ。
 なにしろ、ハワイ、トンガ、クック諸島、イースター島をも含む東西8千キ ロ、南北5千キロの巨大な大陸が存在し、1万2000年前に海に沈んだ―― と言うのだから凄い。彼によると、インカもマヤも、海没したムー文明の名残ということになる。
 示された地図を見ると、まるで池に鯨を浮かべたようである。輪郭は恐竜に似ているが、地質学的に存在しなかったことがわかっている。しかし、彼は、イ ースター島はじめ太平洋上に点在する島々に、多くの意味不明の巨石遺構があることから、この奇想天外な説を考えだした。

 というわけで、ムー大陸のお話はこれで終わり....となりそうだが、そうはならない。

 まず、ムー大陸の形であるが、世界第二のニューギニア島そっくりである。もし印度の僧院にそんな古地図があったとすれば、想像の賜物でニューギニアが大きくなったのであろう。ともあれ、陸地沈没の伝承が太平洋一帯にはある。 原因は、今回、東北地方太平洋側を襲ったような巨大津波であったろう。
 独自に、アトランティス北海説をとる筆者の考えでは、この大陸の沈没は、6万余年前から1万年前までつづいたウルム氷期が終わり、地球が急激に温暖化した結果起きた、巨大氷河湖の決壊によるものだった。だが、太平洋のムーは、今回の東日本大地震と同じ、プレートの巻き込みによる巨大津波の恐怖の記憶だったのである。

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