森林人コラム

中野 常明氏によるコラム「木を友に」

26 メタセコイア

メタセコイアの木

メタセコイアの木

 メタセコイアという名前を知ったのは、中学生の頃だった。 確か石炭の生成暦を調べていて、昔、メタセコイアという巨木があって、地下に埋もれて石炭になったという事を知ったのだ。 何故かこの時のメタセコイアという名前を忘れずにいた。社会人になって、東京出張になったとき見慣れない街路樹に メタセコイアという名札が付いているのを発見し驚いたものである。
 この木は、長い間化石としてしか発見されなかったが、 1945(昭和20)年、中国の四川省で生木が発見され生きた化石として騒がれた。 その後、湖北省にも自生していることが発見され、その木から種を採り苗木が育てられた。 1950(昭和25)年、苗木は日本にも輸入され各地で植栽された。東京でも植えられたので、そのうちの1本に出会って、 化石ではない生木に驚いたというわけである。札幌にも分配され北大植物園に植えられた。

 メタセコイアは、スギ科メタセコイア属で、和名はアケボノスギ(曙杉)英名はDawnRedwoodである。 葉、枝振り,球果などは、カラマツによく似ている。樹皮は杉に類似、雌雄同株、落葉高木で高さ20m~30mの巨木にもなる。 暖地に植えられた方が成長が早い。用途は、街路樹、公園樹が主で、中国では木材原料として植えられている例がある。

メタセコイアの葉

メタセコイアの葉

 以前苫小牧に住んでいた頃、仕事の関係で石油備蓄基地に出入りしていた。そこの設立10周年記念行事として、 記念樹を植えることになった。樹種を選んでいるとき意見を求められた。樹種候補の中にメタセコイアがあったので、 迷わずにそれを推薦した。メタセコイア→石炭→石油→エネルギー源→石油備蓄基地という連想からである。 偶然にも選定者も同じ発想であり、顔を見合わせて笑ったものである。順調に育っていれば、もうかなりの大きさになっていることだろうが、 入門証をもっていないので、簡単に見に行くというわけにはいかない。

 札幌に移り住んでからウオーキングを始めたが、何と同じ町内の庭にメタセコイアを植えている個人宅を、2軒見つけた。 また、いつも通っている小公園にも数本のメタセコイアを発見した。日高の穂別町(現むかわ町穂別)には メタセコイアの並木があると聞いて、一度、是非見に行きたいと思っていた。ところが小樽市内をバスで巡っていた時に、 偶然メタセコイアの並木を発見したので、是非という気は失せてしまった。今年、東大演習林見学の帰途、 三笠の化石博物館の庭に、数本のメタセコイアを発見し、この木の希少性はもうなくなったと感じた。

参考図書
朝日新聞社 『北方植物園』
辻井達一『「日本の樹木』(中公新書)
佐藤孝夫『「新版北海道樹木図鑑』 (亜璃西社)

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