中野 常明氏によるコラム「木を友に」
2 コブシ
コブシはモクレン科モクレン属で、アジアと北米に35種が分布する。キタコブシは北方型の変種の一つである。ハクモクレン、シモクレン、シデコブシ、ホウノキ、タイサンボク(本州に多い常緑広葉樹)等も同じモクレン科の仲間である。花が大きく、香りがよく、春早く他の花に先駆けて咲くところから、各地に植えられ沢山の人に鑑賞されてきた。
漢字では、「辛夷」と書くが、本来これはハクモクレンを指すという説もある(『日本の樹木』辻井達一中公新書)。何故、辛いという字が含まれるのかと不思議に思っていたが、実をかじると辛いところから来ている(『北方植物園』朝日新聞社)と知り納得した。まだかじったことがないので、機会があればかじってみたい。
アイヌ語ではオマウクシニ(良い香りを出す木)という。良い香りに惹かれて病魔がやってくるので、病気がはやるとオップケニ(放屁する木)と呼び方を変えたとのこと。またアイヌは、この皮を煎じてお茶の代わりに飲んだ。疫病を追い払うまじないの意味が多分にあり、カゼ薬も専らこれだった。(『北方植物園』前出)一度コブシ茶を体験しておく必要がありそうだ。
以前、松前の桜を見に行ったことがある。函館近くの民家の側を通ったとき、コブシやハクモクレンに似ているが花びらの数が多く、少し小柄の木が目にとまった。気になったので、車を戻して近くに寄って観察した。家に帰ってから図鑑で調べたらシデコブシと分かった。花びらの数は、キタコブシの約2倍で12~18枚と多かった。花びらの様子が、しめ縄や玉串ににつける紙飾りの四手(シデ)そっくりというところから命名された。絶滅危惧種といわれるが、札幌の街の中でも時々見掛けるし苗木市でも見掛ける。
『記念樹』という本がある。(三上常夫・若林芳樹共著(財)経済調査会)これには、1年366日(閏年)の誕生樹が写真と共に紹介されている。これによれば、コブシは3月19日生まれの人の誕生樹である。同じようにシデコブシは3月23日、モクレンは4月12日、ハクモクレンは3月25日、タイサンボクは6月10日である。
高川山林(ワオーの森)にも沢山のキタコブシの大木があり、ざっくりと花芽を付けている。植えたばかりの桜はまだ小さくキタコブシに圧倒されているが、やがて大きくなればキタコブシに負けないぐらいの沢山の紅の花を咲かすだろう。ワオーの森の山裾が、紅白の花にかすむ春を想像するとわくわくしてくる。長生きしてそれを見たいものだ。