中野 常明氏によるコラム「木を友に」
16 クルミ
北海道でクルミと言えばオニグルミのことを指す。ぶどうの房状の丸い実を付ける小粒のクルミである。高さ30㍍、幹の太さ1㍍にもなる落葉高木。雌雄同株で日本、サハリン地域に分布する。用途は、家具材、銃床、公園樹。種子は食用。明治末には、銃床用として年間5~6万丁分のオニグルミが北海道から出荷された記録がある。子供のころ扱った薪の中にもよく混じっていたが、鋸で切りやすく斧でも割れやすく、油分が多く優れた薪材であった。
漢字の「胡桃」は、胡(未開地の西域)から来た桃という意味。和名のクルミは、丸い実がくるくるとよく回るからとか、黒い実を意味するとか判然としない。オニは、実の核面がデコボコひどく(鬼面に似る?)堅くてなかなか割れないかららしい。確かに子供の時、殻を割るのに酷く苦心したことを思い出す。ところがエゾリスはこの堅い実を好物とし丈夫な歯でいとも簡単に殻を破って、上手に食べる。
今のわが家の近辺には、外来種であるカシグルミ(=テウチグルミ)が多く、よく目につく。原産地がイラン(旧ペルシャ)であることからペルシャグルミとも呼ばれる。果皮が薄く実は簡単に割れ、オニグルミより大粒で、房状ではなく枝先に1~3個固まってつく。料理や菓子の材料として、古くから使われてきた。大木になるので、狭い庭には植えない方がよい。
砂川に住んでいた頃、友人3人と札幌に出かけて来たことがある。その時、ある一軒の家の前にカシグルミを発見し珍しそうに眺めていた。話し声を聞いて中から女性が出てきて「よろしければ、クルミの苗を差し上げますが、如何ですか」と言われた。三人とも喜んで苗を貰ってきて庭に植えた。順調に育ちかなり大きくなったものの、社宅の引っ越しで移植したところ枯れてしまった。移植せずにそのまま残してくれば、今頃沢山の実を着けていただろうにと後悔している。
旭川の観光名所に「優佳良織工芸館」がある。染色、織物はもちろん素晴らしいが、木が好きな者にとっては、床や壁を埋もれ木(川や湖沼に長年埋もれた木)を使った木材で統一した展示室を見るのが楽しみである。クルミ、ハルニレ、イチイ、ヤチダモ、等の部屋に分れており、落ちついた色調と木目の美しさは、幾度見ても飽きない。その中でも、クルミの部屋が特に気に入っている。
・ 辻井達一「日本の樹木」(中公新書 )
・佐藤孝夫「新版北海道樹木図鑑」(亜璃西社 )
・朝日新聞社編「北方植物園」(朝日新聞社