木を友に

(文:中野 常明)

12 ハンノキ

ハンノキ
公園樹としてのハンノキ

名ヤチハンノキともいう。漢字で書けば「榛の木」である。ミヤマハンノキ、ケヤマハンノキ、ウスゲヒロハハンノキ等同属種が多い。ヤチハンノキはその名の通りミズバショウや葦が生えているような湿地によく見られる。高さ20mに達する。一方ミヤマハンノキは亜高山や高山に生えている。カバノキ科に属しシラカンバ、ダケカンバの親類筋。

供の頃切ったり割ったりした薪の中にもよく混じっていた。材質は軟らかくカバ色、火持ちが悪いので、薪としては下等材である。そのせいか、役立たずの人間をののしるときに「えい、このハンノキ野郎」と怒鳴っていたのを良く聞いた。ところが、軟らかくて乾燥してもそらないという点が買われて、えんぴつの材料や、漆塗りの下地材に使われたというから、それ程バカにしたものではないようだ。この木を切ると樹皮から赤っぽい水が出るので、アイヌはこれを血と考えて補血強壮剤として服用した。因みにハンノキのアイヌ名はケネ(血の木)である。剣淵(けんぶち)、計根別(けねべつ)という地名は、これに由来する。
真夏のウオーキング路上で、沢山の葉を落としている木があった。

 よく見るとハンノキで、害虫が寄生している様子もなかった。後にラジオで、この木は真夏になると葉の半分を落としてしまう性質があると聞いて納得した。多分真夏になると葉からの水分蒸散が多くなるので、蒸散量を抑えて水分不足にならぬよう葉を落とすものと思われる。他の木でも同じ条件の筈だが他の木で同じような落葉の例を聞いていない。

 

ハンノキの枝先枝先の雄花

ンノキの一族は根に根瘤菌を持っている。大豆と同じように窒素肥料を与えなくとも根瘤菌に助けられ自ら空中の窒素を固定して肥料とする。この性質は痩せ地の緑化に活用されている。ダムサイトのように広く表土が失われ、他の樹種ではとうてい生育しないような痩せた土地に、ハンノキ属を植えて緑化に成功した例がある。本州では、同属のヤシャブシ、ヒメヤシャブシが古くから緑化に使われハゲシバリ(禿縛り=禿げた土地でも木の根で縛るという意味か?)ツチシバリ(土縛り)という異名を戴いている。
ハンノキの花の開花は非常に早い。前年の秋から花の準備をして、ネコヤナギより早く花を咲かせる。房状の雄花を枝一杯にぶら下げるので、春先は遠くからでもハンノキだと識別できる。秋になると10oほどの松ぽっくり状の実が熟する。これとそっくりの実を付ける同属のヤシャブシの実は「ヤシャ玉」と呼ばれ木彫作品の染色に使われる。濃い焦げ茶色、あるいはチョコレート色に染まる。ハンノキの実も使えないか試しに水の中に実を入れておいたら、少し薄目の茶色の溶液が得られた。

 

【参考図書】
・佐藤孝夫「新版北海道樹木図鑑」(亜璃西社 2002)
・辻井達一「日本の樹木」(中公新書 1995)
・朝日新聞社編「北方植物園」(朝日新聞社 1968)
・坂本直行「私の草木漫筆」(茗渓堂 2000)

 

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