森林人コラム

中野 常明氏によるコラム「木を友に」

11 オンコ

オンコ

町中で見つけたオンコの古木

 北海道でオンコといえば、木に関心のない人でもこの名前ぐらいは知っている。それ程お馴染みの木という事である。庭のある家なら必ずと言っていい程どこかにオンコを植えてある。常緑で、姿、形が美しく日陰でも丈夫に育ち、苗木も簡単に手にはいることなどが原因と思われる。

 オンコは他にも沢山の名前を持っている。イチイ、アララギ、キャラボク、スオウ、ヤマビャクダン、シャクノキ、水松等々である。イチイは、仁徳帝がこの木で作った「笏」(神主が使う板状の神具)が素晴らしかったので、官位の一位を与えた故事に由来するという。アララギは、斎藤茂吉、土屋文明等が活躍した短歌誌の名前にもなった。キャラボク、ヤマビャクダンは、その材の色と香が香木の白檀に似ているところから来ている。植木屋は、キャラボクは背丈が高くならず横に枝が伸び、オンコとは別種という人が多いが、植物学的には同種と見る先生(「日本の樹木」の辻井達一先生など)と別種と見る先生(「北海道樹木図鑑」の佐藤孝夫先生など)の両派があるようだ。ややこしいことに、オンコの葉はイチイより幅が広く別種だという説もあるとのこと。オンコはアイヌ語ではない。東北地方でイチイのことをオンコ、オッコ、オッコノキ、ウンコ、アッコ等と呼び北海道にも伝わりオンコになったらしい。(「日本の樹木」前出)アイヌ語では、ラルマニ、あるいはクネニ(弓になる木の意)である。

 道内のあちこちにオンコの名木が残っている。かつて住んでいた砂川市の神社の境内にも樹齢千年を超えるといわれた古木があった。又芦別市の黄金地域に「黄金の水松」と呼ばれている巨木があり、わざわざ見に行ったことがある。期待通りの堂々たる古木で満足して帰ってきた。今住んでいる札幌のど真ん中でも立派な巨木を発見し、車の中から眺めて喜んでいる。

 オンコの一番美しい時期は、新芽の出る春先である。木全体が浅緑の芽に覆われて、生き生きとした雰囲気を醸し出す。こんな時のウオーキングは、自ずからオンコの生け垣に囲まれた家々を巡るコースになる。但しこの時期は、害虫のカイガラムシの繁殖する時期でもあり注意を要する。枝や幹に動く白い小さな虫を見つけたら即刻駆除した方がよい。さもなくば、やがて貝殻状の固い殻が外表面を覆い薬剤が効かなくなる。

 雌雄異株で、雌の木は、夏の終わりから秋にかけて、赤い小さな実を沢山付ける。甘味料の乏しかった戦中、戦後には、この甘い実を見つけて他人の庭まで忍び込んだものである。赤い果肉の中には緑色の種があり、うっかり噛むと渋くて酷い味がする。有毒の成分を含んでいるためである。子供に与える場合は注意が必要である。ハムレットの父親は、うたた寝中に欧 州イチイの種からとった毒液を、耳から垂らされて死んだといわれている。
因みにオンコは12月21日の誕生木である。

<< 前の号へ  ▲コラムトップへ  次の号へ>>