自然に潜む危険と向き合う

今内 覚(こんない さとる):北海道大学獣医学研究科准教授

第3回 ダニ(マダニ)による危険性

 感染症はヒトや動物の健康を害する一番の原因であり、時としてヒトや動物の健康だけでなく命まで奪ってしまいます。原因となる病原体によっては、‘虫さされ’により病気が引き起こされることもあります。昨今、ダニによって媒介される病気が問題となっていますが、ダニにも種類があり、大きく分けて屋内の絨毯や布団にいる小さいダニと野外に生息するマダニとに分類されます。屋内の小さいダニは、主に喘息、アレルギー性鼻炎、かゆみの原因となりますが、問題となっているのは、動物の血液を餌とするマダニです。正確には‘マダニ’が問題ではなく、ダニの体中に潜む病原体が原因となります。マダニは血液だけを餌に、幼虫-若虫-成虫と脱皮し成長します。よって1匹のダニは生涯に3回血液を吸うことになります。血を吸うだけなのになぜ感染するのか?と思う方もいるかもしれませんが、ダニは血液を固まらせないように唾液を注入しながら吸血します。このときに唾液中の病原体が人間の体内に侵入することで感染が成立します。ダニは病原体を故意に伝播している訳ではなく、病原体がダニを‘乗り物’として利用しているのです。
 ニュースなどで報道されている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の原因はウイルスです。このウイルスは、北海道のダニからも検出されました。現在のところ北海道では、患者は発生していませんが、発見が遅れると重篤な症状を呈することから注意が必要です。ダニの中の細菌が体に侵入することで病気になるライム病や回帰熱も気をつけなければなりません。

 このような病気に対するワクチンは現在ありませんので、ダニに刺されないことが唯一の対策です。残念ですが、一般的な虫除けはダニには有効ではありません。ダニに刺されないように肌を隠すことが基本ですが、いくら気をつけていてもダニは襟元、裾、袖から巧みに侵入します。ダニはカのようにすぐには刺さず、皮膚の柔らかいところを探し回った後、刺します。私の場合、仕事上ダニを目当てに山に入りますので、山仕事の後は、必ず風呂に入り、念入りにダニにさされていないかチェックします。湯船にダニが浮いていることもしばしばです。
 万が一、吸血しているダニを発見した時は無理に自分で剥がそうとせず外科へ行き剥離して下さい。無理に引きはがすと注射の原理で、自分で病原体を打ち込むことになり危険です。ダニを使った実験から病原体は、すぐには体の中に入らず吸血開始2日後くらいに侵入することがわかっています(但しウイルスの侵入はこの限りではありませんので注意)。
 山開きが待ち遠しい方も多いと思いますが、クマだけでなくダニにも気をつけましょう。

 

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