自然に潜む危険と向き合う

今内 覚(こんない さとる):北海道大学獣医学研究科准教授

第4回 ハチ その危険性と対策法

 これまで本編においてクマやマダニについて取り上げてきましたが、残念ながら先日、北海道ではヒグマによる傷害事故、九州ではマダニにかまれたことによる重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の死亡事故が発生しました。
 登山や山菜とりシーズン真最中ですが、山や森に入られる方は改めて気をつけて下さい。今回は『ハチ』について取り上げます。
 ハチによる死亡事故は、毎年日本全国で山林のみならず住宅地等でも発生しています。私も調査で山に入った時に、近くにハチの巣が有ったかは不明ですが、何度か襲撃を受けた時があります。病院から離れた山林で刺された場合、手当が遅れると大変危険です。
 一般的に『ハチ毒』が原因で危険だと考えられていますが、実際は毒自体による影響ではなく、自分の体が備えもつ免疫が暴走することで激しい症状が現れます。これは過剰なアレルギー反応の一種で『アナフィラキシーショック』といい、ソバアレルギーなどの過激な食物アレルギーなどと同じメカニズムです。
 症状は、じんましん、腹痛、視野や聴覚の異常、嚥下障害、呼吸困難、意識混濁などです。アナフィラキシーショックで死亡する場合は、ハチに刺されてから短時間であることが多く、一刻も早く治療しなければなりません。ハチ刺されにはアンモニア(尿)が有効との話を聞いたことがあるかもしれませんが、残念ながら科学的には事実でありません。
 ハチ対策ですが、マダニと同様、一般的な防虫剤は有効ではありません。ハチに刺されないような服装や行動、香水などの刺激臭の使用を避けることが重要とされますが、いくら気をつけていても襲撃される場合もあり、完全に防御するのは困難です。
 そこで対策薬の携行が勧められます。アドレナリンの自己注射薬である『エピペン』は、アナフィラキシーショックの進行を一時的に緩和する補助治療薬です。特定の物質に激しいアレルギー反応を示す方に病院で処方されるショック症状を抑える薬ですが、ハチ刺されにも有効で医療機関へ搬送されるまでの症状悪化を防止します。ハチ対策として林業従事者の方にもエピペンの携行が推奨されています。

エピペン(販売元のファイザーHPより)

 2011年9月に保険適用となり、健康保険による一部負担で処方を受けることができるようになりました。エピペンは、緊急時に使用(自分または同行者等が注射)するものなので、日頃から正しい使用法を、しっかり理解しておく心構えが必要です。
 尚、エピペンは、あくまでもショック緩和の補助的に使用する薬で、決して医療機関での治療に代わり得るものではありません。症状が回復しても必ず病院で受診するようにして下さい。

 

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