森林人コラム
中野 常明氏によるコラム「木を友に」
19 ハリギリ
ハリギリは、別名センノキ(栓の木)といいウコギ科、ハリギリ属。山地に生える落葉高木で、高さ25m、直径1m以上にもなる。小枝には沢山の棘があり葉の出ない早春にはタランボと見違えることがある。幹には、粗い網み目のような割れ目が出来る。ハリギリは漢字では「針桐」で、針のような棘のある桐という意味である。木質や葉の形が桐と似ている所から来ている。
土地の肥えたところで育つので、開拓時代には土地選びの指標になった。葉は天狗の団扇形で、秋には黄葉し遠くから見るとイタヤカエデと間違うことがある。幼木はヤツデによく似ているが、ヤツデにはない鋭い棘があるのですぐ見分けがつく。七月には枝先に黄緑色の小さな花を付け、10月には実が熟して黒くなる。巨木になるので街路樹として植えられることは少ないが、公園樹として植えられている。道庁前庭や北大植物園では巨木が見られる。
アイヌ語では、アユシニといい、棘が沢山ある木という意味である。この木でアイヌは丸木船、木鉢、臼などを作った。明治の末から下駄材として大阪方面に大量移出されたが、大正十年をピークとして次第に量が減った。下駄からゴム靴に変わったことや下駄以外の建築、家具、車輌材などにも使われ始めたのも原因である。
木材としてのハリギリは、オニセンとヌカセンの二種に分けられている。オニセンは材の色が白く、年輪の幅が広く、石センと呼ばれるほど堅くて重い。材は変形しやすく細工物には向かず枕木くらいが主な用途であった。ヌカセンは年輪の幅が狭く、軟らかく、カンナをかけると桐に似た艶がでる。木目が綺麗で明るく家具材として使われた。山の人達は、この二種を木肌で見分けている。樹皮が黒ずんだ褐色で、粗く深い裂け目のあるのがオニセンで、比較的に樹皮が滑らかのがヌカセンだという。
春先に枝の先に付く芽は、タランボの芽とそっくりで、枝にはタランボと同じ棘もある。子供の頃タランボの大木を見つけたと信じ棘に刺されながら手かご一杯に芽を摘んで、自慢げに帰宅した。ところが「それはセンノキの芽だ。食べられないから捨てて来なさい。」と、お袋に言われがっくりした思い出がある。しかし、最近山菜の本を見るとセンノキの芽もタランボの芽と同じように食べられると書いてある。一度試してみたいと思っている。
朝日新聞社 「北方植物園」
辻井達一「日本の樹木」(中公新書)
佐藤孝夫「新版北海道樹木図鑑」
(亜璃西社)