森林人コラム

東前 寛治氏によるコラム「木を友に」

9 森の幼稚園

 これまで「森に入る心」から、人と森との関わり方について歴史をさかのぼる形で、入会権を中心に述べてきた。今日では、日本の国土の66%が森林原野で、そのうち人工林が43%、林業家が251万戸、その75%が5㌶未満、林業労働者は6万人に過ぎず、その老齢化が深く進行している。

 このような山林の実際の状況はどうだろうか。森林の保全と利用には多くの問題が含まれている。戦前・戦中そして終戦直後の薪炭利用と住宅建設などで大量の伐採と植林が進んだ。しかし、その後の手入れの不足により多くの山林を荒廃させてしまった。そのことが自然災害を多発させ、漁業資源の減少にまで及んでいる。1000万㌶をこえる人工林が造成されているものの、安い輸入材に追いやられて、国産材の需要は極めて少ない。そのため人工林の間伐や手入れは不十分となり、農山村の過疎化の進行に拍車を加えている。

 一方、現今の地球環境問題のクローズアップやエコブームとあいまって、森林に関する文献が数多く出版されている。ある書店では「森林・環境」と銘打ってコーナーを設けているほどだ。ついては「木育」なる言葉も出てくるなど、森林について触れた書籍の発行量も増加してきた。それだけ各地でさまざまな取り組みがなされてきたということであろう。これからはそんな実践例や森のために活躍してきた人の動きを取り上げていくことにしよう。いわば今日における人と森との関わり方である。

ワオーの森で遊ぶ子どもたち

 まず紹介するのは、1960年代デンマークで一人のお母さんの活動から始まった「森の幼稚園」である。園児が野外で過ごす生活を中心にした幼児教育で、北欧をはじめドイツなどヨーロッパを中心に広がっていった。日本でも神奈川県鎌倉市の「青空自主保育なかよし会」などが知られている。その活動とは、林道  歩き、崖を滑り降りて よじ登ったり、水たまりや用水で水遊び、虫つかみ、草を噛む、草木の実を取る等々。ドイツでの比較研究によれば発語が早い、発語量が多い、語彙が豊富など、園児のコミュニケーション能力の向上が見られるという。もちろん体力・運動力の向上は言うまでもないが、森林内での遊びが子どもにとって偶発的な状況の連続であり、子ども同士での働きかけの必要性が増すことが、大きな要因と言えるだろう。森林内での子どもの気持ちの開放、その機会の多さ、読み聞かせと遊びの組み合わせなど集中と拡散の切り替えも大きいという。このような森の効能は、ウッデイーズの会員なら誰しも予想がつくことであろうと思う。実際の義務教育でも教育課程の中に取り入れることができたら、どんなにかすばらしい実践が、というより生き生きとした人間教育ができるだろうと思うのは決して私だけではあるまい。

【参考文献】
・浜田久美子「森の力―育む、癒す、地域をつくる」 岩波新書
・宮崎勇・本庄真「日本経済図説」第三版 岩波新書

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