中野 常明氏によるコラム「木を友に」
29 コシアブラ
柴原山林の間伐を始めた頃(2009年)ヒバの林の中にコシアブラの群生を発見して驚いた。コシアブラには滅多に遭うことがないので、本当にコシアブラかどうか自信がないので、家に帰り文献を見直して、間違いないことを確認した。
柴原山林全体に見られるのではなく、ヒバ林の一部のみに偏在していた。近辺に親木があるかと四方を探したが、発見できなかった。何故狭い地域に集まり、しかも殆どが若木か、の理由も分からなかった。
もし、柴原爺ちゃんが植えたのであれば、もっと大きく育っているはずだ。そうなれば、考えられるのは、野鳥の働きだ。コシアブラの実を食べた野鳥が飛んできて、糞を落としたのが、発芽したのかも知れない。それでも、一カ所に集中している理由が分からない。野鳥がトイレを一カ所に決めているというのも不自然だ。土地の条件が良かった所だけに木が育ったのかも知れない。
ハッキリ分かっていることを紹介したい。コシアブラは、漢字で書けば「漉 (こ)し油」である。この木から採取した樹液を漉して金漆油(ごんぜつゆ)を得て、漆のように塗料として使ったことから来ている。別名アブラボウ、アブラギとも呼ばれる。タランボウ、ハリギリと同じくウコギ科に属するが、トゲの無いのが特徴である。 多くは、湿潤な肥沃な土地に生え、ミズナラ、アサダ、カツラ、サワシバなどの落葉広葉樹と混淆する。北海道から九州まで、日本全国に分布している。高さは15~20m、直径は60㎝に達する。掌状複葉で小葉は5枚、倒卵状長楕円形で、中央片が最長(10~20㎝)、鋭鋸歯縁、先は急にとがり互生する。一見トチの葉に似た感じである。
花は黄緑白色で径は約5㎜、8~9月に開花し10月に黒熟する。実の付き方はタランボウとよく似ている。幹や枝の中心部に髄(ずい)が通っているのもタランボウ、ハリギリに似る。材は緻密、軽軟、帯黄灰白色で、白色の広い辺材がある。箱、器具材、楊枝、マッチ材、一刀彫りの原木などとして使われる。但し、材の量が少ないためか、コシアブラ材の製品を目にすることは少ない。
タランボウやハリギリと同様に、春の新芽を山菜として食べられると聞いて一度試してみた。タランボウよりも少し苦みが強いが、結構美味しくいただける。枯らさないように上手に摘んで、長く楽しんで欲しいものだ。
宮部金吾・工藤祐舜著、須藤忠助画『北海道主要樹木図譜』(北大図書刊行会)
奥田実『生命樹』(新樹社)
佐藤孝夫『新版北海道樹木図鑑』(亜璃西社)