中野 常明氏によるコラム「木を友に」
20 キハダ
ミカン科キハダ属の落葉高木、高さ25m,幹の外皮は淡い黄褐色で厚いコルク質、幹に縦溝があり、葉は対生複葉、シンジュ、ヤチダモの葉に似ている。北海道では、別名「シコロ」と言うがその由来ははっきりしない。樹皮の薄いものを「ヒロハノキハダ」と呼ぶことがある。雌雄異株、5~6月に径8mmほどの黄緑色の花を付ける。8~10mmの球形の果実は、秋には黒く熟する。
分布は、日本、朝鮮、中国、アムール、ウスリー地域である。北海道では、渡島半島を中心として、後志、胆振、日高、石狩近辺まで見られる。薬木、染料木として古くから有名。江戸時代に幕府や諸藩は、この木を切ることを禁じていた。そのため明治初期までは、大木が残っていたが次第に切り倒されて少なくなってしまった。近くの防風林の中にも何本か見られるが、数は少ない。
幹の内皮は、鮮やかな黄色で、漢字では「木膚」と書く。内皮は黄柏=黄檗(おうばく)と呼ばれ胃腸薬となる。健胃薬としては、「熊胆」(くまのい)より効き目があると言われる程である。すごく苦い薬で、主成分はベルベリン。大腸菌、チブス菌、コレラ菌に対して殺菌力がある。鎮痛、収斂作用があり胃痛を止め、腸内の炎症を和らげる。子供の頃「シコロの内皮は、腹痛に効く」とおふくろに教えられたので、試しに煎じて飲んでみた。あまりの苦さに、以後いくら腹が痛くなっても二度と飲む気は起こらなかった。昔あった陀羅尼助丸、ワカ末、百草丸などという名の胃腸薬は、皆この黄檗が主成分であった。内皮ばかりでなく実をすりつぶして、虫下し、打ち身、リューマチなどの薬にした。アイヌが目薬に使ったという記述もある。
キキハダを染料にする方法は、中国から渡来した。中国では、古くから階級を着物の色で区別したが、その中で黄色は最上位だった。この染料に黄檗が使われた。外皮のコルクは水をはじいて軽いことからガラス玉の浮きが出来る前には、漁網用の浮標として使われていた
アイヌは、この木の皮とぶどう蔓で丸木船を造り、仕留めた熊や鹿を運んだとのこと。木材としては、水分や湿気に強いので、洗い場の板などに使われた。戦時中アルミの弁当箱を供出した代わりにキハダの弁当箱が配給になったことがある。これは中味が黄色になるので閉口した。
朝日新聞社 『北方植物園』
辻井達一『「日本の樹木』(中公新書)
佐藤孝夫『「新版北海道樹木図鑑』 (亜璃西社)