春日 順雄氏によるコラム「命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵」
15 ソメイヨシノとエゾヤマザクラ
ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの雑種です。明治初期に東京の染井村(現豊島区)の植木屋が売りだしたとされています。花が美しいことから、全国的に沢山植えられています。
ソメイヨシノは実をほとんどつけません。それを植えても発芽しないそうです。エドヒガンとオオシマザクラを掛け合わせても、ソメイヨシノが誕生するとは限りません。
では、同じ形質をもったソメイヨシノの苗はどのようにして増やしているのでしょう。全部、接ぎ木苗を育てて植えます。クローンを作っているのです。ソメイヨシノは命をつなぐ方法を人に委ねていると言えるでしょう。
いっぽう、エゾヤマザクラは、沢山の実をつけます。40%~50%の花が結実するそうです。種子の運び屋は小鳥たち。エゾヤマザクラは命をつなぐ確かな方法を持っています。
写真は、羊ケ岡の森林総合研究所のエゾヤマザクラの並木です。
研究施設が今のキタエールのある場所から引っ越す時に、そこにあった紅色の濃いエゾヤマザクラから種子をとり、育てたものです。濃紅色の桜並木づくりを狙ったのですが、クローンでなく実生なので、白から濃紅色まで大きな変異が見られます。
春、北海道の桜は、エゾヤマザクラが咲き、数日遅れでソメイヨシノが咲き始め、春爛漫の季節を迎えます。