春日 順雄氏によるコラム「命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵」
1 セッケイムシ
まだ、その生活史は十分に解明されていないそうですが、幼虫のときは綺麗な渓流の中で過ごし、真冬から雪解けの頃に成虫になり、交尾をし、卵を産むという昆虫がいます。
2006年3月16日、西岡水源地の上流の沢を歩いていた時のことです。真っ白な雪の表面に黒い小さな点がイッパイ動いていました。大きさは、1,5~2センチぐらいです。カワゲラの仲間です。夏でも雪渓で見られるのでセッケイムシともいわれています。翅のないものをユキクロカワゲラ、あるものをオカモトクロカワゲラというそうです。
「クロカワゲラの成虫は黒く見えるものに向かって進みます。雪の中で黒く見えるものの多くは木々です。木のまわりに到着すると雪の中にもぐったり、交尾したりして数週間過ごします。雌の卵巣が成熟すると、木に登っていきます。木の梢に達すると、そこからジャンプして一気に近くの沢まで飛んでいき、産卵し、次の世代が始まります。」という文を目にしました。
成虫は、水以外摂取しないし、それほど口が発達していないともいわれます。氷河期の生き残りともいわれて、淘汰の激しい自然界を生き抜いて来られたのは、食べるものがないために外敵の少ないこの時期に成虫となり、産卵する、という生活に進化してきたからでしょう。