森林人コラム

中野 常明氏によるコラム「木を友に」

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ミズキ

ミズキ

  ミズキは漢字で「水木」である。正月の繭玉の木として知られている。 しめ飾りや門松と一緒に歳の市で売られている。子供の頃は、門松と一緒に必ずミズキを取ってきたものである。 先端の芽を欠いて、小さく切った餅を刺して飾り札も飾って、節分までそのままにしておいた。節分までには、刺 した餅がすっかり乾燥してひび割れて、指で触れると簡単に崩れるようになっている。これをフライパンで炒ると 「あられ」になる。正月の餅を食べ尽くした後なので、貴重な餅菓子だった。

 ミズキはミズキ科ミズキ属の落葉高木である。高さは20mかそれ以上に、直径は70㎝~1mにもなる。成長は極めて 早いから樹齢の古いものは少ない。枝は放射状に且つ水平方向に出る。幹は灰色だが、枝先は艶のある紅色で美しい。 北海道では6月頃から花が咲き、秋に赤い実を付ける。熟すると暗紫色に変わりヒヨドリが喜んで食べ、ヒグマの好物でもある。

  春になると樹液の吸い上げが盛んになり、樹皮に傷を付けると大量の水があふれ出す。そのことからミズキと名付けられた。樹液は、カエデのように甘くないので、シロップの原料にはならない。材は白く、緻密な木質が好まれ、こけし人形の材料になる。

ミズキの花

ミズキの花

 アイヌ語でミズキはイナウニニ(御幣の木の意)。材が白くて美しいことから特別に神に敬意を表すときの御幣作りに使われた。 アイヌが儀式を行うときの祭壇に、木を削ってチリチリにウエーブをつけた、木の薄皮の束が飾られているが、それがイナウ(御幣)である。御幣の材料の順位は、キハダ、ミズキ、ハンノキの順位で、ミズキは、第二位である。

 ヤマボウシ、アメリカヤマボウシ(ハナミズキ)、サンゴミズキ、サンシュユ等も同じミズキ科に属する。ヤマボウシは北大植物園に沢山植えられており、大通公園にも何本か見られる。春の花(普通、花と言われているのは、総包であり小さな花は内側にある)は群がり咲き、秋には可憐な赤い実を付けるので、好きな人は自分の庭で育てている。

 ハナミズキは、尾崎行雄がアメリカに桜の木を贈ったお返しに、日本に贈られてきたことで有名である。残念ながら寒さに弱く、北海道では、余りよく育たない。道庁レンガ館の前庭に何本かあるが、春になっても弱々しい花がチラホラしか咲いていなかった。暖地で丈夫に育って花が沢山咲けば、ポトマック河畔のソメイヨシノに負けない華やかさになるだろうと想像している。

参考図書
『北方植物園』(朝日新聞社) 
辻井達一『「日本の樹木』(中公新書)
佐藤孝夫『「新版北海道樹木図鑑』 (亜璃西社)
福岡イト子著、佐藤寿子画「アイヌ植物誌」(草風館)

〔取材メモ〕
ミズキの写真を撮るのにこんなに苦労するとは思わなかった。前田森林公園、屯田防風林、手稲山、 田嶋山林など捜してみたが数が少なく満足いくものがない。掲載写真は手稲山で撮った一枚だが、ミズキの一般的姿形とは少し違うようだ。

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