自然に潜む危険と向き合う

今内 覚(こんない さとる):北海道大学獣医学研究科准教授

第5回 流行り病 ジカ熱について

 長い北海道の冬がおわり初夏が近づいてきました。家族や仲間で山菜採りや魚釣り、登山に出かけるかたも多くなってきたと思います。心地よい温暖な気候はアウトドアライフに駆り立てます。その一方、暖かくなるとやっかいものが現れ人間や動物を苦しめます。蚊の出現です。
 蚊は水中に産卵し、一般的に約2日で孵化し幼虫(ボウフラ)となります。さらに約7日で蛹となったのち3日で羽化し空中を飛び回ります。ここまでたった約2週間です。成虫となった蚊の寿命は2ヶ月くらいとされます。
 吸血するのは交尾後のメスで、オスや交尾しないメスは吸血を行わず植物等の汁を吸って一生を終えます。よく見かけるヒトにたかる蚊は、交尾後のメスで、短い間に子孫を残すために血眼になって宿主(吸血相手)を探している最中なのです。

 研究報告によると、気温が15℃から20℃になると孵化率は2倍になり、夏日(25℃〜30℃)だともっとも吸血活動が活発になるそうです。
 蚊による害はかゆみだけではありません。時には病気も媒介します。以前、本編においてマダニによって媒介される病気について取り上げました。マダニ同様に蚊の体中に潜む病原体が原因となります。蚊は病原体を故意に伝播している訳ではなく、病原体が蚊を「乗り物」として利用しているのです。
 蚊によって媒介される病気はマラリア、日本脳炎、デング熱などです。現在、ニュースが大々的に取り上げているジカ熱も蚊によって媒介されます。ジカ熱はジカウイルスに感染することで起こる発熱性の疾患です。ウイルスの由来はアフリカのサルと考えられています。恐ろしい感染症として取り上げられていますが、実は健常者が感染しても死に至ることは非常に稀な感染症です(ほとんどの感染者は無症状)。しかし、妊婦が感染した場合、胎児に感染し小頭症を引き起こすとされています。現在、有効なワクチンが無いことから妊婦の方は特に注意が必要です。
 ジカ熱はアフリカ、中南米、アジア太平洋地域で発生があります。これまでに日本国内でのジカ熱の発生例はありませんが、海外でウイルスに感染し、帰国後発症した例はあります。
 ジカウイルスはネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されることが確認されています。ネッタイシマカは、日本には常在していませんが、ヒトスジシマカは、日本のほとんどの地域(東北以南)で認められます。
 ヒトスジシマカはデング熱の原因ウイルスも媒介します。数年前まではジカ熱と同様にデング熱も日本では発生がありませんでした(69年間)。しかし、2014年の夏に東京を中心に流行が認められ、問題となったのは記憶に新しいと思います。北海道にはデング熱やジカ熱を媒介するヒトスジシマカがいないとされていますが、数年前に東京で蚊に刺された札幌の方が、帰宅後デング熱を発症しています。
 近年国際化が進み海外との距離は一気に縮まりました。多くの方が海外渡航され、多くの海外の方も北海道を訪れます。過剰な警戒は必要ありませんが、対岸の火事ではなく、今そこにある危機として感染症の動向にも目を向けなければならない時代となりました。デング熱やジカ熱流行地への渡航を控える身としては、さらに注意し調査に挑む予定です。

 

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