森林人コラム

春日 順雄氏によるコラム「命を引き継ぐ 木や虫たちの知恵」

17 オオウバユリ

 7月中・下旬、森の中にオオウバユリの花が咲き誇ります。

 発芽して開花までは10数年はかかると言われています。開花は、一生に一度きりです。10数年かけて蓄えてきた鱗茎の養分を使い切って死んでしまいます。しかし、多くの場合花茎の基部に小さな鱗茎を残して命を引き継いでいきます。
 一つの花につく翼果は六百以上。一つの花茎には10以上の花をつけますから、翼果の全体数はおびただしい数になります。
 翼果は、風によって散布されますが、その仕組みたるや、まさに巧妙。自然は、かくも緻密で巧妙であるかと感心します。

 翼果が熟すると果皮が三つに割れてきます。

その縁をご覧下さい。櫛の歯のようになっています。翼果が下にこぼれ落ちないようにしっかりと受け止める仕組みになっています。これでは、翼果は散布されません。ところが、風が強い秋の日のことです。横から強い風が吹き込みます。風は櫛の歯状の隙間から入って果皮の壁に突き当たります。風は上向き方向に変化します。その時、翼果も風と一緒に噴水のように上方向に吹き上がります。吹き上がった翼果は強風によって遠くに運ばれていきます。
 オオウバユリは鱗茎(栄養生殖)と種子で命をつなぐという二つの手段を持って います。

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